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東西名探偵/平×新のSSブログです。幸せイチャイチャ中心。                                                               死にネタ別れネタなし。初めての方はカテゴリーより「はじめに」をクリックしてください。                                                 ご意見、ご感想等ございましたら カテゴリー下にあるリンクのWEB拍手や文末コメントにてお願いします。
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2026/07/02 (Thu)
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2009/11/27 (Fri)
「唇が寒いって思う時があって、」
突然現れた男はそう呟くと、俺の手をとった。
玄関の中、廊下の高さ分だけの高低さの身長。
あの頃とはずいぶん違うその距離は、無論身長だけのことではなくて。
「急に会いとうなった。」

ぎゅうと抱きしめられた体、胸に彼の髪がくしゃりと散らばる。
すまんな、と口の中だけで謝ると、その唇で俺に触れた。
少しかさついていたのに、ひどく柔らかく感じるのは何故だろう。
濁る血液がゆっくりと濾過されていくみたいに、じわりそこから心臓へ流れていくような錯覚。

静かに優しく微笑んで、それだけで彼は離れていく。
好きや、といつもの囁きを飲み込んで、・・・けれど全身からそれを滲ませて。
最後に掌で俺の頬を撫でると、その掌を自分の心臓へと宛てた。
ひどく満足そうな表情をして、その幸福な笑みを胸へと閉じ込めるように
胸へと宛てた手で服をぎゅうと握り締めた。

そこに嵐を隠して、抑えきれぬものをこうして時折少しだけ解放しながら
いろんな言葉を飲み込んでお前は来る。
俺が抱き返せないことを知っているのに、抱きしめるためだけに。

―――俺はただ黙って立っていることしかできない。

雪の積もるような静かな沈黙を破り、突然の電子音。
彼への携帯電話の呼び出し。
苦笑しながら、ポケットを探りその電話の主を確認して俺に声をかける。
「もう時間や。急にすまんかったな。」
なり続ける電話に出るつもりはないらしい。
その電話をまたポケットに押し込んで踵を返し、片手で俺へと別れの合図。
開かれた玄関ドアから寒風が吹き込んで、肩をすくめてお前が出て行く。
扉をしめる間際、いつもの明るい瞳で笑っているのを見せるのも忘れずに。

重い音をたてて閉じられた扉の鍵を、両手でしっかりとかけなおしてリビングへと戻る。
まるで何事もなかったかのようにソファへ座り、けれど時間の経過を知らせる冷めたコーヒーを一口嚥下した。
つけられたままのテレビからは、何があっても見損ねることができないと意気込んでいたサッカー中継が映る。
ぼんやりとそれを眺めながら、また冷たいコーヒーを口にした。


熱の奔流を恐れながら、俺はどこかでその堰が崩されるのを待っている。

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run
2009/11/25 (Wed)
好きだという気持ちを隠してさえ、隣に立つその場所を誰にも譲ることなどありえないのに。
少しだけ淋しい顔をして俺の乗る電車を振り返ったから、
次の駅で折り返して、もう一度このプラットホームに降りてしまった。

いるはずのない彼はまだそこにいて、
何故かまだ俺の乗っていた電車が去った方向を見ながら、じっと立ち尽くしていた。
後ろに立つ俺には気付かぬまま、白い息がマフラーから零れて風に流れる。
次の電車がまたそのホームへと停車するのを合図に彼は何かを振り切るように踵を返し、
そうして俺を見て驚愕した表情を浮かべた。

次の瞬間彼は走りだしてこの場所から逃げたから、反射的に追いかけた。
ひとしきり走り、駅の階段を駆け下りて見慣れた街並みへ抜ける。
伸ばした腕で、白い手首を捉えるまで後少し。



浮かれるな心臓。
確かめるまでは。

彼の顔が赤いのは寒さのせいか、それとも。

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2009/11/20 (Fri)
休憩に立ち寄ったサービスエリアで、平次はコーヒーを買いに自動販売機へと向かった。
新一は建物の壁にもたれて、ぼんやりと立ち尽くしている。
温かいものが恋しい季節だ。
ホットのコーヒーを二つ、紙コップで購入するとすぐに彼の隣へと戻る。

「寒ない?」
「ん、平気だ。」
コップを受け取りながらこちらを見て笑うと、またすぐに視線を先ほどまで向けていたところへ戻した。
何を見ているのかと、平次がその視線の先を辿れば。

「・・・まあ、お前には珍しいかもな。」
「初めて見た。すげえな?」

そこには数台の大型バイクが並んでいた。
いずれもメーカーは同じ、有名なアメリカ製のもの。
視線をはずさぬまま、新一は平次に問いかける。
「お前もいずれは”ハーレー”ってクチか?」
「いんや、俺は国産派や。どっちかちゅうと、いつかは”隼”やな。」
「それを聞いて安心した。あれには俺は乗らない。」
「・・・工藤、あれは特殊や。」

平次が溜息をつくのも無理はない。
並んでいるバイクの後部にはいずれも大仰な飾りをデコレートした箱が載っている。
もちろんそれはバイクの積載用のボックスなのだが、何故か金や銀、メッキなどできらびやかに彩られ、
鷲をモチーフにした彫刻まで施されているものもある。
電飾もないのにそれは陽光できらっきらに、まるでネオンサインかくやとのごとく輝いていた・・・。
もちろんボックスだけでなく、そうしたバイクは全身が女子高生のデコ電も真っ青なコーディネイトだ。
ご丁寧にアメリカの国旗まで立てているのは何故だろう。
持ち主は今は不在のようだが、平次は先ほど見かけた食事スペースにいる革ジャン革パン集団を思い出した。
にや~りと笑うと、まだ呆気にとられているのか、まじまじとバイクを眺める新一に平次はコトを持ちかける。

「なあ、工藤。じゃんけんせえへん?」
「はあ?」
訝しげに振り返る新一の眉に、くっきりと皺が寄る。
「じゃんけん、ほいっ」
叫ばれ、咄嗟に条件反射で腕を振る。
コーヒーを利き手に持っていたため、逆の手でしたせいかいつもより反応が遅れた。
「ほい、俺の勝ちやな!」
高々と拳を握り、勝利のグーを掲げた平次に新一が抗議する。
「てめ、今のは無効だ。」
「おんや~、工藤新一ともあろうもんが、そないなこと言うんか?きっちり勝負は勝負や。」
負けず嫌いの新一がぐっと言葉に詰まると、畳み掛けるようにして平次はびしっと指を彼の顔に突きつけた。
「罰ゲームしてもらおやないか。」
はあ?と首を傾げつつ、こうなると引っ込みもつかなくてとりあえず相手の出方を伺うしかない。

「知ってるか?ああいったバイクは、定年過ぎたおっさん連中が多いねん。」
だから、くちさがない連中は言う。
「ああいうバイクは、”仏壇ハーレー”言うんよ。」
にっこり笑って、新一に教える。
「・・・おい。まさか。」
嫌な予感に、返す笑みが凍る。

「というわけでじゃんけんに負けた工藤新一くん!仏壇ハーレー拝んで来てや!」
「待て待て待て!オーナーが戻ってきたら、どうすんだよ!」
「せやからオモロイねん。早よせんと、本当に戻ってきてまうでー。さっきオーナーらしき人らが食事しとったとこ見たけど、もうちょいで食べ終わりそうやって。」
新一は思わず店を振り返るが、死角になっていて中の様子は見えない。
「そんなマネできるか、馬鹿。」
何故か声をひそめてしまう。いたずらをしかける子供のよう。
「じゃんけんで負けたんは工藤やろ?」
「そもそも勝負自体が無効だ、あれは。」
新一はぐいっとコーヒーを飲み干して、コップを拳で潰すとゴミ箱へ投げる。
「勝負は勝負や。」
ワンテンポ遅れて平次もコーヒーを飲み、同じようにしてコップを放る。
どちらもゆるやかなカーブを描いて、ゴミ箱へときれいにシュートされた。
しばらく二人でやるやらないでもめたものの拉致もあかず、
休憩時間をこれ以上長くとるのも馬鹿らしいこともあって、新一は覚悟を決めた。

「じゃあ、てめえもつきあえ!」
「罰ゲームの意味あらへん。」
反論も聞かず平次の首根っこを掴まえて、ずりずりとひきずるようにしてあの並べられたバイクの前に二人で立つ。
ちろっと互いをみやると、パンっと小気味いい音をたてて手を合わせて、目を瞑った。
それは一瞬で、急いで周囲を見渡すと、運悪くオーナーらしき人間たちが自動扉を出てくるところ。
こちらを見て指を挿しているものもいる。
「うわ、やば」
「とりあえず逃げとくか?」
そう言うと、新一の腕を掴んで平次は走り出した。
建物の影に隠れて、肩を揺らしながら息をつくと、どちらからともなく笑い出す。
ひとしきり、大声で笑った後に平次は新一にもう少しだけ隠れていようと、
手を引いて壁際に座った。




帰宅して、しばらく。
ふいに、ああいう馬鹿なことを今まで同年代の友人としたことがなかったことに気がついて、
何故だか胸が苦しくなった。


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2009/11/16 (Mon)
「出たわよ、指紋。」
白衣に身を包んだ女が大股で歩み寄る。
持ち込んだ缶コーヒーをすすりながら結果を待っていた平次は、椅子から勢いよく立ち上がった。
「2つともですか。」
「風呂場とリビングのコップ、平次君の言う通りね。一致したわ。」
平次の座っていたテーブルへとばさばさと書類を重ね上げ、その中からの一枚を抜き出して女は書類を彼へと渡した。
ざっくりと中身を確認し、自分の思うとおりの証拠が揃ったことに目を輝かせる。
DNAの採取までできているようだ。その結果も明日には出るのだという。
「よっしゃ、これでキマリやな。」
指先でパチンと書類を弾くと、勝気な笑みを浮かべて振り向く。
「おおきに、助かりました。」
「こちらこそ助かったわ。この間の事件も平次君の助言で解決したのよね。」
科捜研の面目躍如だわ、と机にもたれたまま黒いストッキングの脚を組み変えた。

立ち上げられたPCが低いファンの音を響かせて、蛍光灯の蒼いライトが瞬いている。
すでに深夜、時計の針は2本とも右側へと傾いている。
腕時計を見ながら反射的に大口を空けて欠伸をする平次に女は笑い、
彼の肩へとしなだれるように手をかける。
「仮眠室で、寝ていけば?」
平次の目が、一瞬細められた。溜息を隠して。
「・・・ねえ、寝ていきなさいよ。」
耳元で囁くその声には隠しようのない艶がある。
整えられた爪でするりと顎を撫でられ、くすぐったさに平次が体を引くと
追うようにして彼女は腕に平次の上半身を捕える。

「・・・いたいけな青少年を誘惑せんでください。」
「お父様に叱られるから?もう立派な大人で、オトコでしょ?」
くすくすと笑いながら、挑発するように胸を押し付けて甘い息を撒き散らす。
30を超えているとはいえ肉感的な体つきに長い睫、彼女には警察内に密かなファンも多い。
うんざりとした吐息を必死に飲み込みながら、できうる限り神妙な顔つきをする。
考えるようにして天井へと視線を向け、まとわりつく腕をさりげなく、
相手に気付かれぬ程度の不快さをもってふりほどいた。
「平次くん。・・・ね、どう?」
照れていると受け取ったか、そんな平次にもう一度距離をつめて女が擦り寄る。
けれど平次は、彼女へと体を向けると声をひそめて宣言する。

「俺、不能なんです。」
続けられた言葉に女が目を剥いて、思わず平次から離れて立ち上がる。
「ひっどい病気で、勃たんのですわ。」

親父に聞いてくれてもええですよ。
視線をはずしながら、ぽつぽつと低く笑いながら話す平次の言葉を聞いて女はたっぷり30秒は黙ったまま。
ようやくその衝撃が引いたか、その沈黙はかすれた声で破られた。

「・・・ほんまに?」
「ほんまです。」
驚きが強いらしく、女の口から長い東京暮らしで消したはずの関西弁が零れた。
残念ですがと苦笑したが、女は好奇心と猜疑心を隠そうともせず、
平次を頭の先から足の爪先までを舐めるように見る。
「お姉さんが治してあげるのに。・・・・・・試してみたら?」
体を平次へと押し付け、脚を擦りつける。
プラチナのネックレスが揺れる胸元のボタンを一つ二つと肌蹴させ、色濃い口紅で飾る唇を耳朶へと寄せる。
彼女は職業柄、嘘を見抜く知識は豊富だ。
誘いをかけられながらも観察されていることに気づきつつ、平次はあえてされるがままにしていた。
露骨な誘いにも、若い健康男児が軽い反応すら見せないことを証明ととったか。
言葉に偽りがないことを感じたらしい女が、ようやく平次から離れた。
もしかすると、これ以上は自分のプライドにも傷がつくと判断したのかもしれない。
「若いのに、・・・いい男なのに、もったいない。」
「自分でもそう思いますわ。」
心底口惜しそうな女の言葉に、へらりと笑いながら床へと視線を落とせば何を誤解したのか女が髪を撫でてくれた。
少しに沈黙の後、そっと、静かに立ち上がって平次は女に頭を下げた。
「ほな、帰りますわ。ほんまにおおきに。」

恨めしげな視線を背に受けつつ、平次は建物を後にした。



嘘は、言っていない。


不能だ。――――彼、以外には。

病気は病気だ。しかも重度の。
草津の湯でも治らないと言うし、実際自分でも重症な感は否めない。

大仰に噂でもたてば、自分へと言い寄る女の数も少なくなるだろう。
したり顔で妖しいお店へと自分を誘うおっさん連中も。
その噂を聞いた親父は、おそらくあきれた表情を隠しもせず肯定も否定もしない。
そしてそれが噂を真実に近づける。
女がらみで恨みを買うのも面倒だし、こうした情報源とはできうる限り有益な人間関係を結んで行きたい。
ここへと出入りする人間は多岐に渉り、噂の広がる速度も期待できそうだ。

知らず、口の端があがった。

ふいに冷たい風が吹きつけて自分の腕を通る。不在の体温を責めるよう。
早くこの腕に彼を捕えたいと、寒さに肩を寄せながら足早に駐車場へと向かった。


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2009/11/16 (Mon)
事件も解決。疲れた体には風呂が一番と、
何故だか俺の子守担当と名乗りをあげた服部に抱きかかえられ、風呂に連れ込まれた。

勢いよく全裸になったヤツに、ろくな抵抗もできないまま服を脱がされ、
あれよあれよという間に浴場にいる。

ふと、まじまじと俺を見た服部がニヤリと笑うと、しゃがみこんで俺と視線を合わせて顔を近づけ、
ぽんと俺の両肩に手を乗せて、一人納得するかのようにうんうんと頷きながら呟いた。

「工藤、安心せい」
「・・・何を。」
神妙な低い声に、何を言うつもりかと身構えていれば、立ち上がって彼は高らかに宣言する。

「大きゅうなったら生えるからな!」

なんでそんな爽やかな表情で、すがすがしく宣言してんだてめえ。

「知ってるよ。つーか、生えてたよ。」
「まあでも、つるつるもええけどな!」
「聞けよ人の話。」
「でも万が一っちゅーこともあるからなぁ。姉ちゃんに言い訳考えとくか?」

この機を逃しては俺をからかうこともできぬと、にやにやと笑いつつ半目でこちらを眺める平次に
俺はにっこりと笑って子供の声で呼びかける。
「平次兄ちゃん。」
「んー?」
もう一度しゃがみこんで俺の口元に耳を寄せたヤツに、低音で低温の声を浴びせる。

「今すぐ、そのにやけた口元引き締めねーと、―――毟るぞ」

脱兎のごとく、俺から離れて硬直した姿を見て、少し溜飲が下がった。

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2009/11/12 (Thu)
手首を戒める縄が、ぎりぎりと喰い込んで赤い痕を残す。
痛みよりも、この状況をどう打開するか脳がめまぐるしく回転する。
それとは反対に冷えていく心。

・・・どうして、ここまで追い詰めるまで気づかなかった。

いや、違う。
追い詰めて、暴発するのを待っていた?

たどり着いた考えが恐ろしくて、ふるりと頭を振る。
ふいに、あいつのおふくろさんの声が蘇る。

(普段は他の子以上に聞き訳がいいくせに、
 本当に欲しいものは、どうしても我慢できないとこがあるの。)
・・・ほら、巻き込んでしまうとわかっていても、好きな子から離れられなかったように。


目を閉じれば、すぐに彼の顔が浮かぶ。
底無しの湖。彼の目は美しく、何もかもを吸い込むよう。

ずっと、あの子のことが好きだと思っていた。
自分さえ我慢すれば全部済むことだと思って、だから。


拳を握り、褐色の腕に力を入れれば、また拘束する縄が皮膚を蝕んでいく。
「アホが・・・」
暗闇に閉じ込めて、何を望む。



*   *   *   *   *   *   *
この後に、strong anchoringに続くのです。
strong anchoring1
strong anchoring2
strong anchoring 3
 
*strong anchoring 4
*strong anchoring 5 
*strong anchoring 6(last)

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2009/11/11 (Wed)


血を流すあいつを見るのは初めてではない。
だけど、それに慣れてしまうことはないだろう、きっと。
胸の内側を焼けたナイフで抉られるよう。
熱くて、痛い。

ぶん殴りたい気持ちを抑えながら、拳で軽く額を小突く。
必死に体を動かして、睫すら震わせながらこちらを見て
その表情が俺を見ると
滲むように・・・笑って、

(・・・よかった。)

唇から吐息に紛れて、安堵の声が零れる。

お前が無事で、よかった。


せりあがるのは、怒りか、痛みか。
目の奥が眩むよう。


そのまま気を失った平次の手首を握り、
その手で自分の手の甲に彼の爪を立てた。
 

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2009/11/10 (Tue)
平次は部屋を訊ねてきた新一を見たとき、まるでこの部屋が彼を捕まえるための蜘蛛の巣であるかのような錯覚を覚えた。tとりあえず、部屋へ来て見た。あいつの昼間の様子が変だったのと、そろそろ自分も限界。
限界の近い精神が彼へ手を伸ばそうと暴れている。獣が人の皮を食い破り、闇の乗じて跳躍するような。
恐ろしさに両腕をぎゅうと抱きかかえる。
戒めを己に課すのは今夜だけのことではないが、今日は特に危うい。
血なまぐさい事件のせいだけではなく、間近で工藤新一を感じたこんな日は。
渦巻く汚い粉塵に似た気配を一刀する彼の推理は、自分の理性さえ軽々と壊す。

「服部。」自分を抱え込んで苦しそうにしている。何がきっかけかわからないがとりあえずチャンス到来?
無意識にささくれる神経に、新一の声が爪を立てる。
「近寄らんといて。」まるで誘うような声。甘い蜜のように俺に絡みつく。
その声は届いたろうに、丁寧に靴を脱いで彼は歩み寄る。
弱っている。今ならあいつの無駄に頑丈な我慢強さを壊せるか。
「頼む。今日は、帰ってくれ。」
「・・・何故。」期待に声が上ずる。気づかれていない?よしよし。
「今日はあかん。・・・あかんのや。」
自分が不安定な状態にあるのがわかる。
まるで深い海の底に沈むような、それ。
深海の雪のように降り続ける彼への想いが、己の中にある闇へ溶けるようなこんな夜は。
もう少し追い詰めれば瓦解する彼の砦。早く壊しちまえよ。俺に言っちまえ。
「俺にはそんなの理由になんねえよ。」
最近の自分をいぶかしんでいるのだろう。彼は疑問に思ったことを暴くまでその追求を緩めない。
言葉を交わす都度、縮められる距離。貴重なチャンス。逃がしはしない。
踏みしめるように近づく足が、ソファに座ったままの自分の傍らに佇む。
手を伸ばせば、すぐ届く。
「最近のお前はおかしい。」
降る声が自分を責めるよう。
詰問する口調であることに新一は気づいているだろうか。
高揚する自分を抑えるのに必死だ。うっとりする。獲物はもうすぐ。
「理由を言え。」
理由なんて想像もつかないだろう、平次は何故かひどく乱暴な気持ちのまま笑いたくなった。
きつく目を閉じた後、ゆっくりと顔を上げる。・・・キた。欲する顔。手を伸ばせ。
ひどい顔をしている自覚はある。新一の顔がふいに無表情になった。よ―っし!心の中でガッツポーズ!
暗い炎をその目に映したのだろう、体が緊張に硬直する気配。緩む口元がばれないように表情を引き締める。

―――アホが。帰れ言うたんに。

くく、と喉の奥で笑い、平次は檻が壊れたことを知った。
ぐい、と新一の腕を引いて、自分へと顔を近づけさせる。
「おかしいんは当たりまえや。」
ずっとずっと、
「俺は、お前に狂うとるんだから。」知っている。だから来たんだ。
両手で新一の頬を包んで、うっとりと囁くように言う。
新一は何故か抵抗もせず、どこか冷めた瞳で平次を見ていた。

「・・・服部。」駄目だ。我慢の限界かも。好きな相手にこんなかわいい顔されて、黙っているほどオキレイじゃないし。
名前を呼ばれて、苦いものがこみ上げる。
頬の手を滑らせて、髪を梳いた。
彼ならば逃げることができるこの状況の中、少しでも長く彼の温度を感じたくて手を止められない。
そして願望がほろりと零れた。

「工藤、俺と一緒に堕ちてくれるか?」

バカタレが。違うだろう!ここはきっちり俺を抱きしめるとこじゃねーか!
虚ろに嘲う表情は、しなやかな長い指から弾かれるデコピンで霧散した。
「あだだだっ、何さらすっ!」
額を押さえ平次が新一を見上げると、彼は鋭利な刃物を滑らせるような視線で続く言葉を黙らせる。
あんまり俺をなめんなよ?きっちり欲情させてくれた分はお返ししとかねえとな。
伸ばされた手が平次の襟首を両側から掴むと、ぐいと持ち上げて唇を塞いだ。
あまりのことに呆然とする平次の口中を彼の舌が泳ぐ。ずっとこうしたかった。
堪能したか、にんまりと笑みを浮かべて新一が平次を解放すると、
彼の口元から銀糸が零れ、まるで蜘蛛の糸のように揺れた。檻を壊したことに免じて、後はそのご褒美。

「堕ちるわけねえだろ。お前となら、極楽浄土へご招待だ。」
呆然とした表情を浮かべる平次の掌を自分の首筋に当て、新一は壮絶な艶を含んだ笑みを浮かべ、低い声で呟いた。

「昇天させてやるよ。」




――――翌朝の太陽は黄色かった。



「太陽って本当に黄色く見えるんやな・・・。」
白いシーツの海でぐったりと体を横たえながら、平次は呟いた。
「なんか言ったか?」
「お前はバケモンかと言うたんや。」
皮肉を隠しもせず、飄々とベッドに寝そべっている新一をうろんに眺める。
白い肌にはあちこちに昨夜の残像が散りばめられ、もう昼近い陽射しになまめかしく照らされる。
新一は腕に残る歯形を得意げに見せながら笑うと、ベッドから降りるために脚を伸ばし・・・そのまま彼の体は床に崩れ、シーツに包まったまま無様に転がる。
驚いた平次が駆け寄るためベッドから飛び降りる勢いで床に降りると、その動きの軽やかさに、新一の舌打ち。
なんだかんだと体の負担は受け入れる側が大きい。
当たりまえの事実を彼の演技で失念していたことに気づき、平次は急に愛しさが溢れた。
目の前の体をぎゅうと抱きしめると、慌てたようにもがく自分より少し細い体。
汗の匂い、オスの香り。
立ち上る彼のそれらに鼻先を埋める。
そのまま、ふと視線をあげれば真っ赤な耳が目に入った。

無理をさせていたのは、体だけではないことに今更気づく。
抱きしめる力をさらに強くして、もがく彼がおとなしくなるまで赤い耳元に好きだと言い続けた。




※反転すると新一の心の声が聞こえます(笑)

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cry
2009/11/09 (Mon)
からりと晴れた青空。
昨夜の雨の匂いはまだ残る。緑がふるりと揺れて雫を弾いた。
陽の光に透けて輝くそれは、まるで昨夜のグラスの破片。


「戻れる確証はない。」

薬を飲むことを選んだ彼は、強い意志を宿す瞳を真正面から俺に曝す。
失う怖さと信じる勇気と、それらが鬩ぎあいためらう俺の迷いを断ち切るよう、
射抜く眼光にすべての決意。

握り締めた拳の中で、飲みかけのグラスがパキリと割れた。
艶やかに滴る指先の血をそのままに彼の頬に触れれば、
子供の様相にふさわしくない、大人びた婀娜の笑みを浮かべる。

白皙に滲んだ紅を、まるで自分の中へ溶かすように
小さな掌で褐色の指を包んだ彼は、その答えが何であるのかを俺に気づかせることもなく。
次の瞬間にはもう目を伏せて、その眼光は俺の目線からは見えない。


「だけど俺は選んだ。もう迷わねえ。」

白衣の少女が彼を呼んで、もう振り返りもせず彼は部屋を出て行く。
壁を殴りたくなる衝動を抑え、気の遠くなるような一夜を過ごしようやく気づいた。
信じられない、そんな表情を浮かべたまま平次はまだ痛みの残る指先を見る。


―――彼の選んだものが何であるのか。

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2009/11/09 (Mon)
どうしようもないことがある。
どうにもならず、どうもできず、―――動けず、叫べず、
・・・なのにあきらめきれない。

電話をとる彼は、とても嬉しそうで、
傍らにいる自分の存在はとても惨めだ。


そんなふうに笑わないで。

拍手[1回]

2009/11/08 (Sun)

冷たい風が、季節を告げる寒さがそうさせたに違いない。
少し前を歩く背中に、耐え切れず唇が言葉を紡いだ。

―――お前だけを、お前だけを、・・・ずっと。

けれど、聞こえなかったのだろう。
振り向きもせず歩く彼に戸惑いの色はない。
囁きは夜の闇に溶け、安堵の白い溜息を俺はコートの中で握りつぶした。


*   *   *   *   *   *   *

背中に囁きが降る。
聞こえない、何も俺は聞こえない。
耳を塞ぎ、眼を閉じ、ただひたすらに願う。

―――お前だけは、お前だけは、・・・絶対に。

歓喜の波をマフラーで隠し、足早にイルミネーションの街角を駆ける。
両手をポケットに縛り付けて、抱きしめる誘惑を壊した。

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2009/11/06 (Fri)

思った以上に時間をとられてしまった。
事件の後の事情聴衆、これさえなければ拘束時間は半減するのにと
げんなりした表情を見せる二人に佐藤刑事が歩み寄る。
「二人ともありがとう。おかげで助かったわ。」
お詫びに近くのファミレスで奢ると言われ、平次が一も二も無く飛びつく。
確かに空腹を抱えている。育ち盛りにはちと厳しい。
少し遅れて来るであろう高木刑事の休憩を待って、4人は車で店へと向かった。

空腹は最高の調味料であるという言葉を実感しつつ食事を終えると、
食器を下げに来たウェイトレスに佐藤が甘いものを頼んだ。
どちらかというと高木刑事の方が好きそうだなあと思うチョコレートパフェを頼んでいる横で、
ついでにまずいコーヒーでもないよりはマシと、新一はコーヒーを頼んだ。
すでに平次はドリンクバーで鮮やかな緑をしたサイダーを飲んでいる。

「お待たせいたしました。」
平日の深夜という時間帯で客も少ない。
頼んだものはすぐに出てきたが、そのウェイトレスを新一たちのすぐ横のテーブルの若者が呼び止めた。
反射的に振り向いたウェイトレスがバランスを崩し、
運ばれてきたチョコレートパフェが盆の上でぐらりとかしいで。

「うわ。」
それはちょうど新一の頭へと降りかかる。
コーヒーを受け取っていた新一は避けようも無く、ゆっくりと零れ落ちてくるそれを眼を閉じて受け止めようと覚悟した。
寸でのところで、平次がパフェのガラスの器を掴んでデザートの全滅を避けたが、
高く積み上げられたクリームまでは助けられない。
冷たい感触が新一を襲う。
渋い顔をする新一を平次が笑い、高木は平謝りするウェイトレスを宥め、慌てた様子で布巾を取りに走る彼女の後ろ姿を苦笑して皆で見送る。
佐藤は自分のハンカチを出そうと、ジャケットのポケットを探ろうと手を伸ばした。
ことりと、音を立ててテーブルにパフェの器を置いた平次が、新一を見てすいと手を伸ばす。

「工藤、クリームついてる。」
「ん?」
とりあえずコーヒーを置こうとしていた新一が平次のほうへと顔を向ける。
平次は親指で新一の頬のクリームを掬い取ると、それをためらいもせずぺろりと舐めた。
続いて新一がその跡をぐいと自分の手の甲でこすり、その手を見て被害の大きさを悟る。
「他はついてねえか?」
頭を平次のほうへと傾けて確認を求める。
「いんや。俺の超ファインプレーで他は無事や。」
いいながら、平次はテーブル横の紙ナフキンを取り出して新一の頬を拭った。
「そうか。ならいい。」
新一は平然とその行為を受け流している。
―――固まったのは、二人の刑事だ。

新一がコーヒーを飲み終える頃、ようやくウェイトレスが新しいパフェを運んで来てお詫びの言葉とともに声をかけてくる。
その声にかちんと固まった二人の呪縛が解けた。

「あの・・・」
高木が言いよどんだその先を、佐藤はずばりと続ける。
「もしかして二人って、つきあってるの?」
その問いに、うんざりとした表情を浮かべて新一と平次は顔を見合わせた。
「またですか。」
「なんでみんなそないなこと言うんやろなあ。」
揃って大仰に溜息。

「俺も工藤もいたってノーマルですわ。」
「先日も同じコトを聞かれましたよ。これで今年に入って5回目です。」
なあ、と顔を見合わせる二人の息はピッタリだ。
そりゃそうだろ、と声にならないツッコミを高木はいれた。
ただでさえいい男の部類にはいる二人が、始終一緒にいてこんな甘い空気を漂わせるのだから。
「そうなの?気を悪くしたなら謝るわ。」
「でも、その・・・」
納得しかねる、とばかりに首を捻る高木を見て若き探偵たちは肩をすくめた。

「そないに言われるんやったら、いっそ本当につきおうてしまおうか?」
軽い口調で平次が新一に問うと、ぎろり人を射抜く眼で新一は平次を睨む。
「うぐっ」
続けて平次が悶絶し、声にならない呻きを発しながら蹲った。
「べ、べんけいのなきどころ・・・!」
新一は何事もなかったかのようにコーヒーをすすると、にっこり笑って二人の刑事を見る。
高木の視線が平次への哀れみに代わったのを見届けたらしい、テーブルに手を突いて立ち上がった。
「ごちそうさまでした。」
「ああ、車で送るよ。」
若干慌てた様子で高木が立ち上がろうとするのを、新一は軽くウインクして制する。
「お二人の時間をこれ以上邪魔できませんから。」
真っ赤になって焦る高木と珍しく頬を染めた佐藤の二人に、ひらひらと手を振って出口へと歩いていく。
「こら、待てぇ!」
その手をがしりと掴んで振り向かせると平次は顔を間近に近づけて新一になにやら文句を言う。
新一は笑って、殴るマネなのか彼のこめかみに拳をつけると、ぶーたれた表情のままの平次を体にへばりつかせたまま、二人はファミレスの出口へと消えていった。

残された二人は、しばらく黙ったまま甘い香りのするテーブルで探偵たちを見送る。
「・・・本当につきあってないのかしら・・・」
「さあ・・・。でも、まあ、仲のいいことは、いいことですよ、ね・・・・?」
もやもやとした空気の中、佐藤は「まあ、いいわ」と呟いて甘いクリームのスプーンを高木の口の中にほおりこんだ。


 

無自覚平新。まだつきあってません(笑)最初のアップ分は、修正前の下書きでした。
マウスの調子が悪くて修正前のがあがってしまっていて・・・すみません!

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eye
2009/11/06 (Fri)
服部平次という男を私が知ったのは、大学に入って間もない頃だった。
マスコミにも顔を出している彼は、いわゆる有名人の類で、
時を同じくして入学した芸能人とも比較されるほどの知名度を誇っていた。
けれど屈託のない笑顔で幅広い交友関係を持つ彼は、いつでも多くの人にかこまれており、
その友人の彼女という位置でもなければ、こんなふうに近くで彼を拝むことなどできなかっただろう。

しばらく休みをとっていたらしい彼が、顔に大きな傷を作って登校してきた時、
一時期周囲は騒然となったが、
彼が色々な危険な事件に足を突っ込んでいることは皆が周知していたので、
その延長だろうと誰もが納得していた。
大学の構内でも特に親しい人間が彼の周囲を取り囲んで、その傷の経緯を軽く訊ねる。
遠巻きに皆が耳をたてているのがわかる。近くにいる優越感を少し感じた。

「服部、その眼どないしたんや?」
「もう見えへんのか?!」
一瞥しただけでわかる傷の深さ、そして閉じられたままの左眼。
時折ある骨折や刺し傷よりも恐ろしく後遺症を感じさせるその傷に、皆心配を隠せない。
けれど彼は、その傷を指差して軽く笑った。

「悪魔と契約して、とられてもうた。」

一瞬、呆けたような間があった。ボケにしては少し出来が悪い。
けれどそうしてはぐらかすということは、あまり話したくないこと。

「あー、だからお前、悪運強いんか。」
「どうりで、その肌の黒さは並でないと思っとたわ。」
「おい。色の黒さは関係ないやろ。」

デビルマンかっ、と誰かが叫んで一様に笑いが起き、そうして次には他の話題へと彼らの話は移っていった。いや、移らされた。
事件のことは深くは詮索しない。
それが服部平次とのつきあい方の一つだと、つきあっている彼から学んでいた。

歩きながら教室へ向かうその時、何気なく私は彼を見た。
廊下に溢れる日差しに、逆光となった彼の姿の輪郭が滲む。

左眼の傷を指先で触れて、彼は微笑んだ。
残る右眼はひどく優しい色をしていた。

ああ、あの眼は誰か大切な人に捧げたのだと、
その時、わかった。

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2009/11/04 (Wed)
掲げられたアーミーナイフが、陽光の反射を受けて鈍く光った。
ためらいなく振り下ろされたそれが、褐色の肌を裂く。
吹き上がる血しぶきがナイフを持つ男の服を濡らし、
それでも俺とその男との間に立ちはだかる体は揺らぎもせず、依然俺の前にあった。
痛みを感じないはずはないのに、不敵な笑みを浮かべて平次は即座に反撃へと転じる。

ナイフを持つ腕を取り、引き寄せて膝を打ち付ける。
衝撃で固く握られた手がナイフを離し、地面へと滑り落ちていく。
流れる動作のまま平次によって自分へと蹴られたそれを、咄嗟に拾う。
それには彼の血が滴り、指が赤く濡れていった。

もがく男の腕を平次は捻り上げ、がらあきとなった鳩尾へと拳を叩き込む。
ぐう、と呻いて男は失神した。
血が眼に滲むのか、眉根を寄せながら平次はその男を見下ろし、
起き上がる気配がないことを確認すると、新一へと体ごと振り返る。

普段は饒舌な彼の沈黙が、痛いほど。
ただ静かに笑みを浮かべて立つ、その顔の左半面は血に濡れていた。


何もかもゆっくりと、まるで映画のように。


刹那、立ちすくむ俺の名を呼ばれて、ぎゅうとナイフを握り締めながら彼を見る。
終わったで、と何事もなかったかのように笑う姿は、流れる赤い違和感を強くさせた。
起こった現実を拒否するように、頭の中で血潮の音だけが大きく響く。
事務的に警察を呼び、救急車が駆けつけるまでの間。
平次は一度も倒れることなく、新一の隣にただ立っていた。


追い詰めた犯人を囮の餌となった俺に喰らいつかせ、さらに背後の敵を燻り出そうとしたこの計画。
危険だと止める彼を振り切ることが出来なかったために、平次にはほとんど無理やりにこの方法を納得させた。
警察の援護は期待できない。
失敗した時に、大きな責任問題を抱えるであろうこの方法は今後の捜査に影響を与えてしまう。
だから二人は遁行し、明るい真昼を選んで自首を促すよう、理論で目の前の犯人を問い詰めた。
がくりと膝をつき、その男が背後の組織の名を口に乗せた瞬間、彼はそのまま血を流して倒れた。
背中に突き刺さる矢を検分する間もなく続けさまに放たれた矢をかわし、がさりと茂みの音に反応して走り出せば黒い服に身を包んだ男が逃げ出していく。
その足もとに投げ出されたボウガン。
少し離れた場所にフォローのため控えていた平次の声を背に、男を追いかけ新一は走り出した。
迂闊であったと言える。
狙われているのは自分だったのだから。
姿の見えなくなった男を探索する最中、平次の声に顔を上げればすでに男は新一への距離を縮めていた。
やべえ、と身構えたその時、男と新一の間に平次が割り込み、彼は盾となった。


引きつれた傷でふさがれた瞼。
それはまるで盟約のよう。
傷つけられた悲しみは本物であったのに、その傷は時折所有印のように新一の心を満たす。
唇で軽くなぞると、平次はいつも苦笑するように肩をすくませた。

―――閉じられたままの左眼は、きっと俺の中の闇を見ている。



 隻眼萌が止まらず・・・。隻眼祭り開催。
昔から弱いんです隻眼に!大好きなの!風魔の竜魔さんに始まり、最近ではロックオン(ニール限定)・・・。

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2009/11/03 (Tue)
「和葉ちゃん、こっちこっち。」
「蘭ちゃん、イキナリごめんな~。」
待ち合わせ場所のカフェで、蘭は大きく手を振ると自分の座っている席の向かいへ和葉を招いた。
堪忍、とばかりに両手で拝むマネをする和葉に笑いながら座るよう薦める。
東京に行くので時間を作れないか、と和葉が電話してきたのは昨夜遅く。
「いいのよ。私も話したいことあったし。」
「え、ホンマ?じゃあ、蘭ちゃんから・・・」

ことりと、テーブルに水の入ったグラスが2つ置かれ、二人の会話はいったん途切れた。
メニューを訊ねるウェイターに、二人は目を合わせ頷く。
「とりあえず飲むもの決めようか。」
「ああ、せやね。蘭ちゃんは・・・」
「私オレンジジュース。」
「あたしはコーヒーもらおうかなー。」
ショーウィンドーに並べられたケーキを思いだし、ひとしきり二人で盛り上がると
各々好みのケーキを選んでウェイターへと告げる。
注文を復唱したウェイターが立ち去ると、和葉はグラスへを伸ばした。
走ってきた為に息が少し切れていたからか、グラスを両手でくいと呷る。
「あ。」
蘭の視線が和葉の左手で止まる。
薬指に嵌められたダイヤが放射状に散りばめられたリング。
「それって、言ってた婚約指輪?見せて見せてー」
はしゃぐ声に、照れたように笑った和葉がずいと左腕を蘭へと向ける。
「ええよ。蘭ちゃんの指輪には負けるかもしれんけど。」
「またまたー。」
和葉の左手を蘭は右手でとると、まじまじとその指にはまるプラチナのリングを眺めた。
「・・・ステキね。デザインがすごく和葉ちゃんにあってる。」
「一緒に選んだんやけど、店5軒ハシゴしたわ。」
「式は、来月でしょう?楽しいけど忙しい頃よね。」
「う、ん・・・。」
和葉の視線が泳いだ。
空になったグラスを握り締め、言いよどむ言葉を続けようかどうしようか悩んでいる。
蘭は彼女の次の言葉を、催促せずにじっと静かに待った。
黙った二人の間に、先ほどのウェイターが音も立てず注文された品々を置く。
しばらくして、思い切ったように顔を上げると和葉は蘭へずいと詰め寄った。
「なあ、蘭ちゃん。蘭ちゃんはどうやって、工藤くんのこと忘れたん?」
「え?」
「私、どないしよう。・・・・・・平次のこと、忘れられんねん。」
からん、と氷が鳴った。グラスについた水滴がテーブルにつつと流れ落ちる。

「今の人も、すごく大事やし、好きやけど、でも。」
和葉は息を大きく吸うと、肩を落として溜息とともに呟く。
「・・・でも平次の時以上の、気持ちになれんの。」
――――ずっと、ずっと大好きだったから。


最初に思いを告げたのは高校の卒業式。
悲しいほどあっさりと断られて、それでも数年、何度も何度も繰り返しあきらめずに好きだと言い続けた。
そのたび切ない笑みを湛えて、けれど言葉では軽く断りを告げる彼の声音にはっきりとした拒絶があった。
家族のような、妹のようなものだと。
それ以上には見られないし、自分には他に好きな人がいると告げられた。
ひどく悲しくて苦しくて、だれか人を呪いたくなる気持ちだってその時に知った。
今の人を好きになるまでの数年間は、タールに足をとられ続けられるような泥沼。
そこから解放してくれた彼へは、感謝の気持ちもつきることはないけれど。


和葉は膝の上に置いた手を握り締めて、その手に嵌められた指輪をじっと見つめる。
これを買ったときに感じた嬉しさは本物のはずなのに、どうしてか式が近づくにつれ、
平次のことを好きだった気持ちが喜びに水を差す。
電話で式の打ち合わせをする都度、相手の優しい声を聴けば聴くほどひどい焦燥感に煽られていき、
たまらない気持ちになって蘭へと電話をかけてしまった。
「なあ、このまま結婚してもええんかな。こんな気持ち抱えたままじゃ、なんや裏切りみたいで申し訳ない気がすんねん。」
じわり、眼が熱くなる。嫌や、泣きそう。
「蘭ちゃんも、こんな気持ちあったん?工藤くんのこと、簡単な気持ちじゃなかったやろ?」
同じ境遇にいた相手だからこそ、たぶんきっと。でもこの質問が礼を失っていることもわかる。
おそるおそる顔を上げて、和葉は蘭を見た。
そこにあったのは、ひどく優しい―――けれど遠くを見るような懐かしい眼。
予想外の表情に、言葉が止まる。
蘭はゆっくりと口を開いた。

「好きな人のこと、忘れる必要なんて、ないよ。」
彼女の柔らかい輪郭に光が纏うよう。ふわりと微笑む。

「私にとってあいつのことを好きな気持ちはとても大切なように、
和葉ちゃんにとっても服部くんへの想いはとても大切なものでしょう?」
「そうや、そやけど・・・けど、こんな気持ち抱えたままじゃ、あの人に悪い気がして・・・」
「もし彼が、和葉ちゃんと同じように大切な人を心に抱えていたらどうかな?」
「あかん。妬いてまうわ。」
即答する和葉に、蘭は声をあげて笑う。
「それはわがままよ。」
「だって、それ浮気にならんの?」
「和葉ちゃんはどう?彼に服部くんへの気持ちが浮気だと言われたら。」
「それは、違うって言うてしまうけど・・・・・・けど、なんか悔しいやん。自分以外の人好きなまま結婚するなんて、裏切りみたいや。」
だからこそ、こうして東京まできてしまうくらい悩んでいるのだと、和葉は苛ただしく冷めたコーヒーをすする。

「裏切りなんかじゃないと思う。誰だって、心に大切な何かを抱えているんだと思う。」
蘭は、和葉の言葉をきっぱりと否定した。その言葉の強さに、思わず和葉は蘭を見つめた。
煌く意思をその眼に見つける。何故か手が震えて、ソーサーとカップがカチャリと音を立てた。

「好きだった時間があったからこそ、今の自分があるんだと思うの。」
彼を好きな気持ちは長い時間をかけて自分に深く浸透し、もう人格からすら切り離せない。

和葉ちゃん、と名前を呼ばれて、和葉は蘭と眼を合わせたまま居住まいを正す。
「好きになったこと、後悔していないでしょう?」
断定的に訊ねられて、和葉は反射的にこくりと頷いた。
途端、ぽろりと涙が流れた。

そうだ。・・・・・・そうだった。
好きになったことを、苦しく悲しく思うときもあったけど、けれどその気持ちはすごく大事なもので。
この気持ちを嘘にしたくなくて、でもそうしないと今の人と幸せになれない気がして、
・・・どちらも捨てたくないからこそ、どうにかしたくて足掻いていたのだ。

泣いている姿をみつめる蘭の眼はひどく優しい。包み込む慈愛に溢れている。
それがまた和葉の涙を零させる。

「でも、ちゃんとわかってるんだよね?」
テーブルに片肘を突いて、深く微笑んで蘭は問う。
「本当に大切な人は誰か。だからこそ、その指輪がその指にあるのよね。」
和葉はもう一度、強く頷いた。
もし今、仮に平次に好きだと言われても、きっと今の私はこの指輪の送り主を選ぶ。
好きな気持ちも本当。大切なのも本当。
平次への気持ちを過去にすることが悲しくて、今の幸せな自分が怖くて。
未来を見据える自分の足元が、少しだけおぼつかなくなっていた。

「マリッジブルーなら私の方が先輩だもの。ちょっとなら、気持ち、わかるよ。」
「そか、これ、マリッジブルーか。」
あはは、と笑うと、まだ零れる涙を手の甲で拭った。
化粧が剥げてしまうな、そう思うけれど涙が止まらない。
蘭は何も言わず、しばらく和葉が涙を流すのを見守っていた。
彼女が顔をあげて、少し歪んだ口元で笑みをつくるのを見ると、自分も少し歪んだ笑みで返す。
泣きたくなってしまう。
自分たちの中にある、大切なもののために。

―――失くさなくてよかった。捨てなくてよかった。


「私たち、ラッキーね。好きな人のこと、嫌いにならないままでいられるんだもの。」
「うん。・・・うん。そやな。」
和葉はふいに視線を外へと流した。
蘭もオレンジジュースのストローで氷をかきまわしながら、外を眺める。

見知らぬ人々が歩いていく。
寄り添いながら、離れながら。
二人でいる人も。
一人でいる人も。

新一と二人で歩いていたときの気持ちを、ずっと忘れない。
あらためて蘭は、そう思った。

「あいつらが悔しがるくらい、すごく幸せな姿をたっぷり見せつけちゃおうよ。」
「こんなええ女振ったこと、めっちゃ後悔させたらんと気ぃすまんわ。」
ウエディングドレス、めっちゃ奮発したんや!
拳を握って力説する和葉を、楽しそうに蘭が笑う。
張り詰めた空気は、明るい声で霧散した。
「すっきりしたらお腹空いたわ。」
ケーキのフォークを握りながら、ふいに和葉は蘭の最初の言葉を思い出す。

「そうや。蘭ちゃん、こっちの話ばっかでごめんな。話したいことって何?」
「んふふー♪実はね。」
そういうと蘭は、自分のお腹を指差した。
一瞬、呆けたような顔をした和葉は、次の瞬間満面の笑みを浮かべた。
「ほんま?!」
「うん、3ヶ月。でも式には絶対行くからね。」



―――今がとても幸せなのは、あなたとの時間があったからだと。
告げることのない真実を抱えて、女たちは艶やかに咲く。



女の子話。あんなステキな人たちを忘れて、幸せになんてなれない。

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HN:
こば
性別:
女性
自己紹介:
二児の母。2009年に唐突に平新に。
何故だと自問自答しつつも数年ぶりに筆をとる。
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