気づいたのは随分と前だった。
時折暗く翳る平次の瞳。
深遠の森の夜に似た静かなものであったのに、今は冬の海のように夜を孕んで荒れている。
好きだと叫ぶようにすがる瞳が、あきらめようと足掻いている。
新一は低い声で嘲笑う。
だって、それは、引き寄せられていく力を強めるだけでしかなかったというのに。
ああ、強い思いに狂いそうだ。
彼はその挟間で揺れている。
境界線を越えてしまえば、俺を手放すことができないことを自覚していたのだろう。
もしも思いを告げた時、俺からの拒絶を受け入れることができないだろうとも。
錆付いた風見鶏がキイキイと不快な金属音を立てながらも動けないように、
彼はただ、なんとか踏みとどまろうとしていた。
だから、俺もそうだと気づかせるきっかけを作ろうとした。
ずるいと思われても、自分から告げることはできそうになかったから、
頻繁に呼びつけては簡単な用件で怒らせてみたり、
遅いから泊って行けと強引に誘うこともあれば、
酔った振りをしてしなだれかかり、耳元で名前を呼んだこともあった。
そのどれにも顕著な反応を返すくせに、最後の最後で彼は無駄なほどに頑丈な意思で
それを振り払う努力をしていた。
それほどに世間体が大事か、
それほどに親が大切かと憤りもしたが、ある日、それは違うとわかった。
後味の悪い事件に巻き込まれたあの日、互いに濁る気持ちを抱えて一人ではいたくなかったのだと思う。
平次を家へ招き、彼もそれを是とした。
口数少ないまま杯を重ねて、ああ、ペースが速すぎると自覚しながらも止めずにそれを呷る。
平次の体を大きく船を漕ぎ出して、ふらりとラグへ倒れこんだ。
「服部、酔ったのか?」
「・・・・ちが・・・」
手を動かすのも億劫そうに、寝そべったまま返事を返そうとする。
「酔ってんじゃねーか。」
足で平次の腰をつつくと、嫌そうに眉根を寄せて体を丸めた。
とりあえず周囲を片して自分もお開きにするかと考え、平次を起こそうと肩を揺する。
「おい服部、とりあえず起きろよ。」
「・・・・・」
俺に起こされても、中々目を空けようとしない平次に、こんなに酔う彼を見るのは初めてかもしれないと、
ため息をつきつつもついじっと見つめてしまう。
ふいに、平次は目を開けた。
新一の顔を、まじまじと見つめる。
焦点は虚ろだ、目を覚ました訳ではないのだろう。
声をかけようとしたが、ひどくつらそうな表情をされて新一は思わず黙る。
薄く唇が開いて、くどう、と小さく名前を呼んだ。
「知らなくてええ、・・・知らんといて・・・」
その瞬間、どうして彼が思いを告げようとしないのかを知った。
、 、 、 、
俺の為か。
瞬時に酔いが消えた。
その時に沸いた感情は、自分でも恐ろしいものだ。
冷えていく脳、沸騰する心臓、そうして目まぐるしく血管を駆け上る激情。
――――ふざけるな。
もう遅い。お前が知らせたこの思いを、お前の考え一つでふいにされてたまるものか。
お前が、お前が、そこまで恐れるのなら、こちらにも考えがある。
幾つもの計画が脳裏に浮かんで、そして一つの方法を工藤新一は選択した。
最もえげつなく、かつ逃げられない方法を。
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何故だと自問自答しつつも数年ぶりに筆をとる。
