東西名探偵/平×新のSSブログです。幸せイチャイチャ中心。 死にネタ別れネタなし。初めての方はカテゴリーより「はじめに」をクリックしてください。 ご意見、ご感想等ございましたら カテゴリー下にあるリンクのWEB拍手や文末コメントにてお願いします。
bitter 続きです。
前回まではこちら。
bitter bitter2 bitter3 bitter4 bitter5
ごし…と擦り続けるにつれ、肌が擦れて赤く上書きされていく。
あの日以来、平次のことを考えれば苦しいばかりだ。
こんなふうに哀しい気持ちになることにも少し慣れてきていたはずだったのに、
こうして彼を目の前にすれば、消えない記憶になお強く苛立ちすら覚える。
わかっている。自分がどこかおかしいことに。
それらを考えたくなくて、事件に没頭する日々を送っていた。
一人にはなりたくなくて、携帯のメモリーから適当に選んだ人間を呼び出した。
今までは蘭が新一を一人にしないようにしてくれていたことに、遅ればせながらようやく気付く。
女友達との時間よりも、家事や父親の手伝いよりも、考えてみればずっと自分との時間を優先し
大切にしていてくれていたのだということに。
事件のたびに置いていかれて、一人残された彼女が何を思っていたのかはもうわからない。
ぼんやりと擦り続ける腕を、いつのまにか傍まで来ていた平次の手が止めた。
「もうやめとけ。傷になる。」
声に見上げれば、彼は傷ついたような顔をしていた。
止めたことを確認した平次に手を離されて、腕がぽふんとベッドに自重で落ちる。
ひりり、首筋が痛んだ。その痛みが不快ではないことが新一を幾分落ち着かせた。
その様子を見ていた平次が、罰の悪い表情を浮かべて後頭部をがしがしと掻いて唸る。
見上げると視線があった。躊躇いがちに平次が口を開く。
「もしかして自分、ふられたんか?」
振ったか振られたかで言えば、おそらく自分が蘭を振ったことになるのだろう。
けれどあの状況はその一言でかたづけられるようなものではなかった。
応えない新一をよそに、平次は推論を進めていく。
「そんでショックで女漁り、とか?」
新一は小さく首を振った。
言われてみて初めて気付いたが、そのこと自身は新一にとってさほどショックではなかった。
蘭を失う苦しさは本物であったが、喪失は淋しさとともにもう彼女を置いていかなくても済むのだという安堵をも感じさせていたから。
ただその原因たるものが何処にあるのかを計りかねており、それが指摘された行動へと繋がっている。
だから新一は再び首を振る。それを見た平次は小さく舌打ちした。
「違うなら、なんでお前があんなことしとんねん。」
声が僅かに荒くなるが、すぐに自身を立て直し呼吸を整える。
もう一度新一へと正面から向き合い、平次は先程と同じ言葉を繰り返した。
「なあ工藤。俺が原因言うなら、ちゃんと話してくれんか?」
「……わからねえよ。」
その答えをどう受け取ったか、平次はそれ以上新一に追求することを止めた。
身動き一つとれないまま無言の時間が過ぎる。
時計の針が動く音が聞こえてきそうな沈黙が、じりじりと二人を攻め立てた。
「あー、もう。」
先にその沈黙を破ったのは平次だった。
片手で前髪を掻きあげると、新一に背を向けてつかつかと歩き出してクローゼットの前に立つ。
「とりあえず別に部屋とるわ。このままだと眠れせん。」
扉を開けて、中から黒いスーツやドレスシャツを取り出した。
遠目からでもわかる仕立てのよい上質な生地、礼服だろうと推測がつく。
「明日の式にひどい顔で出る訳にはいかんからな。」
一人ごちながらもひととおり衣服や小物のチェックを始めた平次に、新一は彼が東京にいる目的を思い出した。
笑う女、ひらり手が平次を呼んで、振り返る彼もまた同じように笑っていて。
新一は掌で口を覆い、それでも溢れそうな不快感に耐えられず指を噛んだ。
軽い痛みに我に返る。
慌ててその手で前髪を何度も掻きあげてごまかすが、指にじんと滲む歯型が新一の心を乱す。
彼の隣に並ぶ女の姿を思い浮かべるだけで、ひどく気持ちが悪い。
無意識に鳩尾に手が伸びて、胃の辺りをさする。
背を向けたまま支度を整える平次はそれに気付くこともなく、軽快な口調を緩めない。
「他の荷物は明日取りにくるから、ほかっといてええで。」
片手にスーツをひっかけて、平次はざっくりと荷物をまとめた。
「お前も風呂でも入って少しは酔い覚まし。ちゃんと布団被って寝るんやで?」
暗澹とした空気を拭うようにして、からりと笑い軽口を叩いてドアノブに手をかける。
一瞬ぎゅうとドアノブを握り締められ、平次の肩に力が入るのがわかった。
同じように新一の体にも緊張が走る。つられるように、じっと平次の動きを見つめた。
迷いのためか平次の視線が刹那こちらに投げられ、慌てて隠すように伏せられる。
そこには、あの日の暗い目が足掻いていた。
認識と同時に、湧き上がる衝動が新一の足を動かす。
立ち上がり大股でユニットバスへと向かい、勢いよく扉を開いて室内へ転がり込むとおもむろにシャワーのコックを捻った。
冷たい水が新一の頭上からざあと降り注ぐ。
瞬く間に全身が濡れて、冷えていく脳に新一はようやく息をつける。
移り香の香水も口紅も、何もかも過去は流れてしまえばいい。
くっと唇を曲げて笑う。
馬鹿なのは自分。目の前に揺らめく答えから目をそむけ続ける。
何かはわからない不安、その源たる平次の声、失った安寧と鞄にしまわれたチョコレート。
それらはバレンタインのあの日、壁際へと自分を追い詰めた彼の瞳に消える。
その瞳は思い出すほどに、怒りのように新一の身を焼いて。
「何しとんや!」
慌てた平次が飛び込んでくるのを背中に感じた。
ためらいなく雨のように降る水の中へと腕を伸ばし、新一の腕を掴んで振り返らせる。
「工藤!」
間近で名前を呼ばれて、新一は笑った。
どうして笑ってしまったのか、自分でもわからない。
ひどく真剣な表情で、心配していることを隠せずにいる平次があまりに幼い顔に見えたからかもしれない。
くしゃり、歪んだ表情が何かを耐えるように唇を噛み締めて震えた。
「このアホが…!」
途端、がむしゃらに抱き締められた。
水を止めることも忘れ、平次は新一を掻き抱く。
冷えた体に温かく彼の鼓動。跳ねる心音に胸が騒いだ。
体全てに血液が巡るのだと実感できるほど強く、質量を持って音をたてている。
背中に廻された平次の腕は、胸を圧迫する強さで新一を拘束していた。
――― なんで、泣きたい気持ちになるのだろう。
だらり垂れ下がる腕が、何かを求めてざわめき指先がわずかにひくつく。
二人して濡れていく、まるで一つの塊になったみたいに。
平次は何も言わない。ただ新一を抱きしめながら、耐えている。
零れる息は熱くて、それを感じながら新一は何度も溜息を嚥下した。
少しでも口を開けば、そこから何かが崩れてしまいそうだった。
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前回まではこちら。
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ごし…と擦り続けるにつれ、肌が擦れて赤く上書きされていく。
あの日以来、平次のことを考えれば苦しいばかりだ。
こんなふうに哀しい気持ちになることにも少し慣れてきていたはずだったのに、
こうして彼を目の前にすれば、消えない記憶になお強く苛立ちすら覚える。
わかっている。自分がどこかおかしいことに。
それらを考えたくなくて、事件に没頭する日々を送っていた。
一人にはなりたくなくて、携帯のメモリーから適当に選んだ人間を呼び出した。
今までは蘭が新一を一人にしないようにしてくれていたことに、遅ればせながらようやく気付く。
女友達との時間よりも、家事や父親の手伝いよりも、考えてみればずっと自分との時間を優先し
大切にしていてくれていたのだということに。
事件のたびに置いていかれて、一人残された彼女が何を思っていたのかはもうわからない。
ぼんやりと擦り続ける腕を、いつのまにか傍まで来ていた平次の手が止めた。
「もうやめとけ。傷になる。」
声に見上げれば、彼は傷ついたような顔をしていた。
止めたことを確認した平次に手を離されて、腕がぽふんとベッドに自重で落ちる。
ひりり、首筋が痛んだ。その痛みが不快ではないことが新一を幾分落ち着かせた。
その様子を見ていた平次が、罰の悪い表情を浮かべて後頭部をがしがしと掻いて唸る。
見上げると視線があった。躊躇いがちに平次が口を開く。
「もしかして自分、ふられたんか?」
振ったか振られたかで言えば、おそらく自分が蘭を振ったことになるのだろう。
けれどあの状況はその一言でかたづけられるようなものではなかった。
応えない新一をよそに、平次は推論を進めていく。
「そんでショックで女漁り、とか?」
新一は小さく首を振った。
言われてみて初めて気付いたが、そのこと自身は新一にとってさほどショックではなかった。
蘭を失う苦しさは本物であったが、喪失は淋しさとともにもう彼女を置いていかなくても済むのだという安堵をも感じさせていたから。
ただその原因たるものが何処にあるのかを計りかねており、それが指摘された行動へと繋がっている。
だから新一は再び首を振る。それを見た平次は小さく舌打ちした。
「違うなら、なんでお前があんなことしとんねん。」
声が僅かに荒くなるが、すぐに自身を立て直し呼吸を整える。
もう一度新一へと正面から向き合い、平次は先程と同じ言葉を繰り返した。
「なあ工藤。俺が原因言うなら、ちゃんと話してくれんか?」
「……わからねえよ。」
その答えをどう受け取ったか、平次はそれ以上新一に追求することを止めた。
身動き一つとれないまま無言の時間が過ぎる。
時計の針が動く音が聞こえてきそうな沈黙が、じりじりと二人を攻め立てた。
「あー、もう。」
先にその沈黙を破ったのは平次だった。
片手で前髪を掻きあげると、新一に背を向けてつかつかと歩き出してクローゼットの前に立つ。
「とりあえず別に部屋とるわ。このままだと眠れせん。」
扉を開けて、中から黒いスーツやドレスシャツを取り出した。
遠目からでもわかる仕立てのよい上質な生地、礼服だろうと推測がつく。
「明日の式にひどい顔で出る訳にはいかんからな。」
一人ごちながらもひととおり衣服や小物のチェックを始めた平次に、新一は彼が東京にいる目的を思い出した。
笑う女、ひらり手が平次を呼んで、振り返る彼もまた同じように笑っていて。
新一は掌で口を覆い、それでも溢れそうな不快感に耐えられず指を噛んだ。
軽い痛みに我に返る。
慌ててその手で前髪を何度も掻きあげてごまかすが、指にじんと滲む歯型が新一の心を乱す。
彼の隣に並ぶ女の姿を思い浮かべるだけで、ひどく気持ちが悪い。
無意識に鳩尾に手が伸びて、胃の辺りをさする。
背を向けたまま支度を整える平次はそれに気付くこともなく、軽快な口調を緩めない。
「他の荷物は明日取りにくるから、ほかっといてええで。」
片手にスーツをひっかけて、平次はざっくりと荷物をまとめた。
「お前も風呂でも入って少しは酔い覚まし。ちゃんと布団被って寝るんやで?」
暗澹とした空気を拭うようにして、からりと笑い軽口を叩いてドアノブに手をかける。
一瞬ぎゅうとドアノブを握り締められ、平次の肩に力が入るのがわかった。
同じように新一の体にも緊張が走る。つられるように、じっと平次の動きを見つめた。
迷いのためか平次の視線が刹那こちらに投げられ、慌てて隠すように伏せられる。
そこには、あの日の暗い目が足掻いていた。
認識と同時に、湧き上がる衝動が新一の足を動かす。
立ち上がり大股でユニットバスへと向かい、勢いよく扉を開いて室内へ転がり込むとおもむろにシャワーのコックを捻った。
冷たい水が新一の頭上からざあと降り注ぐ。
瞬く間に全身が濡れて、冷えていく脳に新一はようやく息をつける。
移り香の香水も口紅も、何もかも過去は流れてしまえばいい。
くっと唇を曲げて笑う。
馬鹿なのは自分。目の前に揺らめく答えから目をそむけ続ける。
何かはわからない不安、その源たる平次の声、失った安寧と鞄にしまわれたチョコレート。
それらはバレンタインのあの日、壁際へと自分を追い詰めた彼の瞳に消える。
その瞳は思い出すほどに、怒りのように新一の身を焼いて。
「何しとんや!」
慌てた平次が飛び込んでくるのを背中に感じた。
ためらいなく雨のように降る水の中へと腕を伸ばし、新一の腕を掴んで振り返らせる。
「工藤!」
間近で名前を呼ばれて、新一は笑った。
どうして笑ってしまったのか、自分でもわからない。
ひどく真剣な表情で、心配していることを隠せずにいる平次があまりに幼い顔に見えたからかもしれない。
くしゃり、歪んだ表情が何かを耐えるように唇を噛み締めて震えた。
「このアホが…!」
途端、がむしゃらに抱き締められた。
水を止めることも忘れ、平次は新一を掻き抱く。
冷えた体に温かく彼の鼓動。跳ねる心音に胸が騒いだ。
体全てに血液が巡るのだと実感できるほど強く、質量を持って音をたてている。
背中に廻された平次の腕は、胸を圧迫する強さで新一を拘束していた。
――― なんで、泣きたい気持ちになるのだろう。
だらり垂れ下がる腕が、何かを求めてざわめき指先がわずかにひくつく。
二人して濡れていく、まるで一つの塊になったみたいに。
平次は何も言わない。ただ新一を抱きしめながら、耐えている。
零れる息は熱くて、それを感じながら新一は何度も溜息を嚥下した。
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HN:
こば
性別:
女性
自己紹介:
二児の母。2009年に唐突に平新に。
何故だと自問自答しつつも数年ぶりに筆をとる。
何故だと自問自答しつつも数年ぶりに筆をとる。
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