「俺が選んだやつは違う。」
本当に強い愛情は太陽を向いていると、新一は多くの事件からそれを学んでいた。
「暗闇に共感する人間が多いのは何故かわかるか。その方が楽だからさ。
上を見るより下を見るほうが楽なんだよ。お前らの言う愛ってのもそうだ。」
上半身を無理やり起こし、首を上げて彼らを見る。浮かべる表情は、…誇らしげな笑顔。
「上を向いてきちんと相手のことを想うってことは、すげえ難しいことなんだよ。本当に強い人間じゃないとできないんだ。」
新一の正気を確認し、我に返った一人の女が諭そうと新一へと近づく。
「わからないのは、本当に強い愛を知らないからだよ。」
「私たちがこうしてあなたを拘束するのは、それだけあなたを愛して」
「ざけんな!――― お前たちこそ知らねえだけだ!」
突然の恫喝に、びくりと女の体が揺れる。
俺の選んだ、あいつは。
新一の激昂を叩きつけられながら、青ざめたのはほんの一瞬。
凶悪犯すら足止めするその覇気は狂う人間には通じないのか、また笑みがさざめく。
けれどそれは、どこか苛立ちを含んでいた。
「わかるようになるわ。」
「君に我々を刻んでいけば、自ずとわかるだろうさ。」
主犯格らしき男がすっと体を横に移動させた。
その背後から注射器を持った男が現れ、薄く笑いながらゆっくりと新一へと近づいてくる。
「このまま君を永遠に閉じ込めたいよ。愛しさが溢れて、どうしようもないんだ。」
「愛しているんだ。…愛している。愛している。」
先端から零れる薬品が何か、容易に想像がついて肌が粟立つほどの拒絶感が全身に浮かぶ。
高尚なセリフは下衆な欲望を隠すためだけのものだと知って、あらためて反吐が出そうになった。
肩口で唇の端を拭うと、目の前の集団を象る一人一人をきりりと睨みつける。
その視線にも興奮しか覚えないような、いかれた連中だ。
言葉は無力だろうが、それでも彼らの暴力に屈することはできない。
工藤新一の真実は、工藤新一だけが知っている。彼にとっての、真の愛情が何か、なんて。
「監禁して、相手を閉じ込めて、誰の目に晒したくないほどの独占欲なんて、あいにく俺もヤツも持っている。」
にいっと唇の端を持ち上げて、新一はまた笑った。
「けど俺たちは共に未来を歩くと誓った。閉じこもって下碑た愛欲にまみれるなんざお断りだね。」
「どれだけ俺の体を汚しても、」
そう言うと、そこで言葉をとぎらせた。
脳裏に過ぎる眩しいほどの笑顔。キスする前の微笑みとか。
…浮かんでいくのは、自分でもおかしいほどに一人だけ。
「…そうさお前たちの云う愛なんて、俺の肌には汚れにしかなんねーよ。」
間に合うか、わからない。本来ならば時間を稼ぐよう相手の言い分をそれなりに聞くべきだとも思う。
平次のためにも、本来ならばそうするべきだ。
しかし平次を否定するような彼らの発言は、どうしても許すことが出来なかった。
言葉が通用する相手でもない。新一の言葉はおそらく届かない。
けれど、言わずにはいられなかった。
「あいつしか、俺にはあわねーんだ。お前らなんざ、お呼びじゃねえんだよ。」
【5】へ
何故だと自問自答しつつも数年ぶりに筆をとる。
