前回まではこちら。 【1】
時間をかけての計画だったことは、それだけでも理解できた。
新一の行動パターンを読んでのこの計画は、彼の弱者に対する優しい性格までもが考慮され練られたものだ。
乳幼児を利用するあたり、それが伺える。
実際、子供を前にした新一は、ろくな抵抗もできないまま拘束された。
女を見送った直後に目隠しをもされて連れてこられたここは、先の現場から車で2時間程度。
耳だけを頼りに周囲の同行を探る。
肌に触れる空気は新一たちがいた場所よりも澄んでいる気配、緑の多い場所か。
山林に多く住む鳥の声も届き、逆に他の車の音などが聞こえないことも考えれば、
このメンバーのいずれかが所有する別荘であろうと推測できた。
車から降りると同時に草むらに指先で位置を知らせる発信機をほおる。
1つ目は発見されるためのダミー。車の中に落としてきたそれは、出発前に発見されて新一の目の前で壊された。
2つ目は見つかってもいいように、この監禁場所に入る前に落とす。
悔しそうな表情を演技で作れば、優位に立つと信じて疑わない彼らは3つ目の存在を見抜けない。
ましてそれだけは博士の特性品。市販の電波探知機ではみつけることはかなわないだろう。
攫われた現場に残した平次へのメッセージは、彼ならば解くのにさほど時間はかからないはず。
家にある資料を読み解けば自分と同じ不審点に気付くだろう。
必ず自分を追って現場へと向かうはずで、彼が東京へ到着する予定時刻を鑑みれば
今日中にはこの場所を特定し、警察を引き連れて駆けつけてくれるはずだ。
流石に彼が東京へ向かっていなければ、ここまで無謀な賭けはできなかった。
狙いが何かを知るために相手の懐に入るなど、少し平次の影響を受けたかなと一人ごちる。
しかし、彼らの狙いがまさか自分自身とは。
熱狂的なファンは今までにもいたが、今回はその中でも最悪の部類にはいるようだ。
彼らを刺激せず、時間を有効に稼がなければならない。
視線だけを巡らせて見下ろす彼らの様子を伺う。上手を取っていると信じて疑わない余裕の表情。
ただ一人だけ表情を硬くしている者がいたが、後から来た人間が何かを耳打ちすると頷いてようやく表情を和らげる。
二つ目の発信機を見つけたってとこだな。
ご丁寧に口元を隠していたため読唇術も使えなかったが、こちらを見るその目からある程度の推測はできる。
その男が緊張をやや解いたことで、全員になおいっそうの余裕が生まれたようだ。
より一層、彼らは言葉に熱を込める。
「あなたの素晴らしさは私たちがよく知っている。」
「素晴らしい頭脳、怜悧な表情、あなたをかたどる美しい全て。」
「そう、私たちしかあなたを理解できないわ。」
何度も繰り返されるそのセリフに心底うんざりする。
家族で出席したパーティには大勢いたこうした連中。
父親や母親を崇拝している人間が自分こそが彼らの真の理解者だと名乗り、
それを静かに微笑んでいなしていた両親は、新一にはその害が及ばぬよう細心の注意を払っていたことをこうした時に改めて知る。
「あなたが存在していることをこの地上で最も喜んでいるのは私たちよ。」
ひくりと眉が動いたのを見咎められたらしく、ため息が部屋を満たした。
「やはりまだ、わかってくれないのねえ。」
首を振りながら、やれやれと小さく呟かれる。
「真の理解者にめぐりあったことがないのだから、当たり前ですよ。」
そんな仲間の反応を、一人の男が穏やかな声で諌めた。
「我々の愛情と理解を知っていけば、すぐにこの場所は歓喜の場所となるでしょう。」
「あなたを真実愛することができるのは、私たちだけなのだから。」
「工藤新一という奇跡を、この世界への降臨を、心から祝福しよう。」
【3】へ
何故だと自問自答しつつも数年ぶりに筆をとる。
