終電を心配する声が出始めて、カラオケは延長せずに解散となった。大学のコンパにしては盛り上がった方だろう。参加人数もいつもより多く、男女あわせて20名を超えた。
その原動力なった人物は顔を赤くしながら、男友達を両脇で羽交い締めにしてからからと笑っている。少しでも隙があれば褐色のその腕にまとわりつこうと、目を光らせている女性は少人数ではない。
店を出て解散の音頭を取る幹事はやけ酒が入ったろれつの回らない舌で今日はありがとう!などと叫んでいる。お目当ての子と彼がくっつくための催しだったはずだが、彼女のねらいはあっさりと一番眩しい恒星に向かったようだ。
まだ遊びたりないよね、などと示し合う者、ちらちらと視線を投げかけながらも、男どものガードが堅く声がかけられないらしい。少しでも近づいて、遊ぼうと声をかけようものなら、それならばこいつと、などと次々と腕に抱えている男どもを差し出される始末。
「そんじゃーなー。」
「おう、お疲れさん。」
携帯番号だけでもと粘る子もいたが結局は煙に巻かれてしまい、誰も彼の連絡先をゲットできないまま駅へ向かうごと男女問わずパラパラと人数は減っていった。
駅へ着くと終電の発進が迫ることを告げるアナウンスが流れ、まだ騒ぎの余韻を引き摺りながら電車に滑り込んだメンバー達がガタンと揺れる電車に一息ついた時、ふと周囲を見渡して首をかしげた。
「あれ?服部君は?」
「ほんまや、おらへん。」
「嘘!降りる駅で一緒に降りようと狙ってたのに!」
車内は浅はかなもくろみの破れた哀れな女性達の悲鳴と、それを宥めながらも彼を餌に彼女らから連絡先をゲットしようとする男性陣の携帯電話のプッシュ音が響いた。
「・・・さて、タクシーでも拾おうかな、と」
両手をブルゾンのポケットにしまいこんだまま、少し背中を曲げてるようにして気配を消していた平次は呟くと、改札口からほど近い階段を出口に向かって歩き出した。
数歩歩いて、ついっと振り返る。
「へえ。気づかれとったんか。」
振り返った先には改札口の前、ストレートの髪を肩までおろし、白いタートルネックのセーターと膝上のキャメルのスカートをはいた女性が一人立っていた。彼女は平次の言葉に小さく頷くと、少しためらいを見せながらも彼の元へ近づいてくる。すっきりとした顔立ちと白い肌、眺めの睫が清楚な色気を持っていた。
「俺、結構フェイドアウト得意やってんで?自信なくしそう。」
「・・・見てた、から。」
「さよか。」
俯いたまま、彼女は次の言葉を発しようとはしなかった。何の用件かは平次も察しがついている。両手をポケットから出すと、片手で髪をかき上げた。その動きに彼女の肩がびくりと揺れる。長丁場になるだろうかと、平次が一つ息を吐くと同時に彼女は顔を上げて、平次をまっすぐにみつめた。
「あの、服部君。」
「何?」
表情はにっこりと笑ってはいるが、平次の目は笑っていない。隙を見せるとこういうシチュエーションでは誤解を招くことを数多い経験から知っているためだ。簡潔な言葉で返し、相手の出方をうかがう。
「今晩だけで、いいの。一晩つきあってもらえない、かな?」
「ゲーセンとかで遊ぶくらいなら、ええよ。」
はぐらかした答えで、明確に拒絶を示す。一瞬、泣き出しそうに顔を歪めた彼女は、それでもくっと唇を噛みしめて俯かない。
「・・・一度だけでもいいから、私と寝てみない?」
震える声で、もう一度。今度ははぐらかされることを避けての言葉。
「ありがたい申し出なんやけど、」
「好きな人が、いてもいいんです。」
断る平次の言葉を遮るようにして、彼女は言葉を続けた。切実な響きと、誰にも話していない”好きな人”のことを持ち出されて、平次は黙って彼女の言葉の続きを待った。けれど彼女は自分の発言が失言であったらしく、口元に手をあてて目を泳がせた。慌てて自分を立て直したか、やや取り繕う声で軽い響きを装い続きを話し出す。
「少しの時間、遊ぶだけじゃない、ね?」
断りの言葉を繰り返そうとした平次の声を次々と暗くなる駅舎の電灯が遮った。
「すみません、駅を閉めますので。」
向かい合う男女など慣れたものなのだろう、離れたところから初老の駅員が平次へと事務的に声をかけてきた。
平次はすんません、と頭を下げると駅から出ようときびすを返しかけ、そこから動けないでいる彼女を見て小さく溜息をついた。仕方なく出口へと誘導しようと彼女の手に肩を置けば、びくりと大げさなほどの動揺。見れば握り締めた手はその力の強さのあまり真っ白になっており、かすかに体が震えている。
平次はそれらに気づかぬ振りをしながら、あえて肩から手は外さずに駅舎の外へと出た。コンクリートの壁が無くなると同時に、木枯らしが強く吹き付けてくる。反射的に肩をすくめた平次の腕が肩から離れたことに、ようやく少し緊張を解いたらしく女性の肩がようやく下がる。
かまわず前を歩いていく平次の背中を見つめ、意を決したらしく目をきりりと吊り上げ口を開いた。
「服部君。」
「なに?」
道路の端に並ぶタクシーに目をやりながら振り返らずに答える。
「後腐れないですよ。私。胸も大きいです。遊ぶのにはちょうどいいと思うの。」
冷たい風に晒されて髪がなびき、それを何度もかき上げる度にアンゴラの毛足の長いセーターの袖から紅潮した頬が見え隠れする。長いブーツとニーソックスを組み合わせているが、スカートからのぞく足は素足だ。
白く柔らかな曲線、ふんわりと丸みを帯びたそれらに、大多数の男ならば誘いにのるだろう。
「ええと、河井さん。」
名前を呼ぶと弾かれたように顔を上げた。一瞬、泣きそうな顔で平次を見る。
「あんた、こういうこと慣れてないやろ?」
<続く!>
明日で11月が終わるというのにこのていたらく・・・!!!すみません、今まだ書いています。終わらない・・・長いので分けました。でもたなかさんはもっとがんばってるんですよね。ちょっとでも気にいっていただけるものを書けるようがんばります。
何故だと自問自答しつつも数年ぶりに筆をとる。
